2025年3月4日火曜日

1日1個の卵が心臓病のリスクを減らすことが判明、「善玉コレステロール」がカギ


 卵はタンパク質などの栄養が豊富ですが、血管をつまらせ心血管疾患のリスクになるとされるコレステロールも多く含まれていることから、卵の摂取を控える人もいます。卵の消費量と心血管疾患の関係を調べた以前の研究では、「卵の食べ過ぎが心臓病につながることはない」ことが示されていますが、血液中の225種類もの成分を分析した新たな研究により、適度な卵の摂取は心臓病につながらないどころか「心臓病や脳卒中のリスクを減少させる」ことが判明しました。

卵の摂取が心臓の健康に与える影響については、有益とする研究もあれば有害とする研究もあり、一貫した結果は得られていません。例えば、中国の成人約50万人を対象とした2018年の研究では「1日1個卵を食べると心臓病や脳卒中のリスクが低減される」ということが示されましたが、そのことが血液中のコレステロールにどのような影響を与えるかを調べる研究はほとんど行われていません。そこで、北京大学のLang Pan氏らの研究チームは、中国カドリーバイオバンクの登録者4778人を対象に、核磁気共鳴法という手法で血中のさまざまな成分を調べる研究を実施しました。

研究の参加者4778人のうち、3401人は心血管疾患を持つ人で、1377人は心血管疾患がない人でした。また、各参加者には卵を含めた11種類の食品をどれくらいの頻度で食べるかのアンケートが行われました。研究チームが、血液サンプルの中から測定した225種類の代謝物のレベルと、参加者の卵の消費量の関係を分析したところ、卵の摂取量の影響を受ける成分が24種類特定されました。


さらに、心臓病と関連性がある成分14種類について調べたところ、「卵の消費量が少ない人は卵を定期的に食べている人に比べて、血液中にある心臓病に有益な代謝物は少なく、有害な代謝物は多い」ということが判明しました。特に注目されているのが、血管内につまったコレステロールを除去する「善玉コレステロール」として知られているHDLコレステロールの主成分の「アポリポタンパク質A1」というタンパク質です。分析の結果、卵を適度に食べている人の血中には、このアポリポタンパク質A1が多いことが分かりました。また、アポリポタンパク質A1が多い人は、アポリポタンパク質Bが少なかったとのこと。アポリポタンパク質Bは、体内にコレステロールを届ける役割があるものの、増えすぎると心血管疾患の原因になることから「悪玉コレステロール」と呼ばれることもあるLDLコレステロールの主成分です。


この結果について、論文の共著者である北京大学のCanqing Yu氏は「今回の研究結果は、適度な量の卵を食べることが心臓病を予防することにつながることの裏付けとなるかもしれません。卵の消費量と、心血管疾患のリスクの関係の中でコレステロールが果たす因果関係を検証するためには、もっと研究が必要です」と話しました。また、同じく共著者のCanqing Yu氏は、「この研究は、中国の食事ガイドラインに影響を与えるかもしれません。中国では、卵を1日1個食べることが推奨されていますが、実際の平均摂取量はそれより少ないことが分かっています。私たちの研究は、心血管疾患のリスクを下げるために、国民に適度な卵の消費を奨励する戦略がもっとたくさん必要だということを強調しています」と述べて、国家ぐるみで卵の消費を増やす取り組みが求められるとの見方を示しました。


高齢者が毎日卵を食べたら、 死のリスクは高まるのか


 卵にはコレステロールが多く含まれているため、かつては「血中コレステロール値が高くなるから卵の食べ過ぎは控えた方がいい」などと言われることがありましたが、後の調査で食べ物から得られるコレステロールが血中コレステロール値の上昇に関わっているという証拠はないことがわかっています。新しい研究で、高齢者が卵を食べることが心臓の健康状態を良くし、早死にのリスクさえも減らす可能性があることがわかりました。


オーストラリア・モナッシュ大学のホリー・ワイルド氏らは、オーストラリアとアメリカに居住する1万9114人の高齢者を対象とした研究「ASPREE(ASPirin in Reducing Events in the Elderly)試験」とその著名なサブ研究で得られたデータを利用し、70歳以上のオーストラリア人と65歳以上のアメリカ人の食生活や健康状態、死亡している場合はその要因などを分析しました。ワイルド氏らが参考にした研究では、普段の食生活に関して「過去12カ月間にどれくらいの頻度で卵を食べましたか?」というアンケートが実施されていました。

参加者はゆで卵、ポーチドエッグ、目玉焼き等の卵料理について「全く食べない/ほとんど食べない」「月1~2回」「週1~2回」「週3~6回」「毎日」「1日に数回」の選択肢から回答を選びました。なお、アンケートでは卵の種類については問われていませんでしたが、ワイルド氏は「オーストラリアの卵の消費量はほとんどが鶏卵である」と補足しています。

ワイルド氏らが参加者のうち特定の因子を持つ人を除いた8756人をピックアップし、健康状態との関連性を調べたところ、週に1〜6回卵を食べる人は、ほとんど食べない人や全く食べない人に比べて、研究期間中の死亡リスクが最も低かったことがわかりました。具体的には心血管疾患を原因とする死亡が29%、全死亡で17%低いという結果でした。ただし、心血管疾患および全死亡リスクは、「卵を毎日食べている人」と「ほとんど食べない人や全く食べない人」の間に差は認められなかったとのことです。加えて、がん死亡率と卵の摂取量の間に関連は認められませんでした。

全体としては、8756人のうち2.6%が毎日卵を食べ、73.2%が毎週卵を食べ、24.2%が卵をほとんど食べないか全く食べませんでした。加えて、卵をほとんど食べないか全く食べまない人と、毎週または毎日食べる人を比較すると、前者のグループは年齢が高く、正式な教育歴が12年未満であり、身体活動レベルが低く、非飲酒者であり、食事の質が低い傾向があったとのこと。なお、食事の質が中程度~高程度の人に絞って分析したところ、卵を週に1〜6回食べている人は卵をほとんど/全く食べない人に比べて心血管疾患の死亡リスクがさらに低かったとのことです。

ワイルド氏らは高齢者が週に1~6回卵を食べることは、全死亡リスクと心血管疾患の死亡リスクの低さと関連していることがわかりました。オーストラリアの食事ガイドラインでは、成人に週7個までの卵を食べるよう推奨していますが、私たちの調査結果に基づくと、高齢者に対する指針を調整する余地があると考えられます」と述べました。